東京地方裁判所 平成5年(ワ)17669号 判決 1994年4月11日
原告
北岡才太郎
被告
親和交通株式会社
右代表者代表取締役
石丸剛
右訴訟代理人弁護士
川辺直泰
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、一三六万五九九二円及びこれに対する平成五年一二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、平成三年一二月、一般乗用旅客自動車運送事業を業とする被告に、訓練生・臨時社員として採用され、試採用期間を経た平成四年五月一六日、本採用となった。
2 原告が右訓練生・臨時社員として採用されるに際しての採用条件は次のとおりであった。
(一) 原告は被告の定める標準賃金に従って稼働し、賃金は営業収入に応じて毎月二六日に支給する。
(二) 賞与は、毎年四月、八月及び一二月の各月一〇日に支給する。
3 原告と被告との間で締結された労働契約一七条には「被告は労使の協議により締結した給与規定により原告との賃金契約を締結する。1、タクシー料金の改定がなされた場合は、その時点での労使双方の協議により決定し締結した給与規定とする。2、各年度の賃金改定が行われた場合においては、その時点での労使双方の協議により決定し締結した給与規定とする。」との定めがある。
二 争点
賞与請求権(予備的主張としての損害賠償請求権)の有無
(原告の主張)
原告は、被告に採用されるに際し、賞与をも含めた賃金額を営業収入(売上高)の六三・四パーセントとすることを約した。
したがって、原告の平成四年八月から同五年一一月までの営業収入は、別紙(略)未払賞与額目録記載のとおりである(但し、営業収入を「総運収」と表示)から、原告に支給されるべき賞与額は同表差額分記載のとおりとなる。
被告の主張する労使協定は、この協定で定める基準以上の約定をした原告にはその効力が及ばないし、休憩時間、年次有給休暇等の取得を抑制する機能を有しているから、公序良俗に違反し無効であり、また、労働者間の競争を不当に煽り、実質的にノルマを課すものであり、営業収入が一定の基準に達した者とそうでない者との差別をするものであるから、労働基準法、憲法一四条に違反し、公序良俗違反として無効である。
仮に、右の主張が認められないとしても、原告と被告との間には右に述べた約定が締結されたのであるから、賞与金額が賃金割合により確定していないとしてこの支給をしないことは原告の期待権を侵害した不法行為となるから、原告は、右表差額分記載の損害を被ったこととなる。
また、使用者が労働者に対し、年間給与の三か月分相当額を賞与として支給することは労働者の当然の権利として一般的に是認されているところであるから、営業収入が一定額以上に達しない者に賞与を支給しないとすることは反社会的行為であるし、右に述べたとおり、労働者間に不当な差別をするものである。
原告は、右のことにより多大な精神的苦痛を被った。
また、被告は原告に対し、原告が本訴を提起した後様々な圧力をかけ、業務の遂行を妨げ、暗に退職を強要した。
原告は、右のことにより労働権、生活権を侵害された。
(被告の主張)
被告が原告を採用するに際し、原告との間で賞与をも含めた賃金額を営業収入の六三・四パーセントとする約定をしたことはない。
被告は、平成四年八月二〇日、運賃改定の認可に伴い労働組合との間で同年度乗務員の賃金に関する協定を締結し、就業規則の変更をなした。
右変更された就業規則の賞与表によると、賞与対象期間四か月の営業収入(売上高)が二三五万二〇〇〇円以上の者に対し同表支給率に従い六ないし八・七パーセントの賞与を支給することとなっている。しかるに、原告は、右の間における営業収入が右の額に達しなかったから、賞与支給の対象とならない。
第三争点に対する判断
原告の主張する、原告が被告に採用されるに際し、賞与をも含めた賃金額を営業収入の六三・四パーセントとすることを約したことを認めるに足りる証拠はない(かえって、原告と被告との間で締結された労働契約一七条には前述したとおりの定めがなされており、<証拠・人証略>によると、被告は、平成四年八月二〇日、労働組合との間で、同年度の乗務員の賃金に関する協定を締結し、就業規則の変更をなしたこと、賞与については、右変更された就業規則の賞与表によることとされており、これによると、賞与対象期間四か月の営業収入が二三五万二〇〇〇円以上の者に対して同表支給率に従った六ないし八・七パーセントの賞与を支給することとなっていること、ところが、原告は、その主張する期間いずれも右の基準額に達していないことを認めることができる。)。
したがって、原告の主張する賞与請求権は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
また、原告の主張する損害賠償請求権も、右に述べたと同様に理由及び原告の主張する、被告の本訴提起後の業務遂行妨害、退職強要行為を認めるに足りる証拠はないことから、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
なお、原告の主張する労使協定、賞与支給基準額等についての無効事由は、いずれも原告の独自の見解であって採用しない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 林豊)